父親の気高さ、厳格さ、そして愛情ゆえの脆さ。
宮沢賢治さんの名著『銀河鉄道の夜』ではなく、『銀河鉄道の父』です。
本書は宮沢賢治の父、政次郎が語る宮沢家の物語です。
近々映画が公開されると聞き、手に取ってみました。
単行本で408ページと分厚いのですが、面白くて2日ほどで読み終えてしまいました。
きっと読者の皆さんは、政次郎さんを好きになってしまうだろうと思います。
時代は1900年代初頭で、家父長制が当然です。父親は家の秩序を守るために、常に厳格であり、威厳を保つ必要がありました。
ただ、賢治への愛情がその厳格さを揺るがすのです。
賢治が病になり、本来妻が看病するものを政次郎自ら行ったり、幾たびの金の無心を結局は許してしまう。どうしても助けてやりたいという気持ちが抑えられない。
そして、政次郎は「われながら愛情をがまんできない。不介入に耐えられない。父親になることがこんなに弱い人間になることとは、若いころには夢にも恐れなかった。」といいます。
私は親になると責任が生まれ、人間を強くするものと思っていました。
しかし、政次郎の言うように愛情や優しさが人間を脆くさせることもあるのかもしれないと思いました。父親としてあるべき姿と溢れる感情に思い煩う政次郎を愛おしく感じました。
特に印象的だったのは、賢治が結核で倒れ、生きるか死ぬかの瀬戸際で伝える政次郎の励ましです。「お前がほんとうの詩人なら、後悔のなかに、宿痾のなかに、あらたな詩のたねを見いだすものだべじゃ。何度でも何度でもペンを取るものだべじゃ。人間は、寝ながらでも前が向ける。」
物理的には起き上がることができない以上、前を向くことは難しいけれど、心持ちは前向きな姿勢でいられる。これほど人を励ます言葉もなかなかないと感じました。
賢治の瞳はかがやきを増していきます。
どんなに困難な状況でも強くあれること、政次郎さんはそう教えてくれます。
気になる方はぜひお読みください。