川さんの読書記録

25歳。読書の備忘録として、週1冊ほど。

2024/2/28『正欲』朝井リョウ 7/10

自分がとうてい想像しえない世界があることを考えさせられる一冊です。

多様性という言葉が広がり、以前より身体的な違いや性格の違いを受け入れようという風潮があります。ただ、そこで言われる多様性はあくまでその人が想像できる範囲でのことであり、想像できないような性格もあって、多様性の枠から排除してしまうこともあるのだと知りました。

すべてを理解する必要はないし、そもそも理解できないけれど、それでも寄り添っていけるような優しい気持ちで読み終えました。

著者の朝井リョウさんは『何者』で直木賞を受賞されていて、気になってはいたのですが、これまで読めずでした。
今回初めて読んでみた率直な感想は、言葉のキレが鋭く、人が持つ細かい感情を正確に描写されるので、読みやすく感情移入しやすいなと思いました。
読んでいて素敵だなと思った表現をいくつか引用させていただきます。

p144
まるで夕立に降られるように、勝手にその一部に自分が含まれてしまうことが沢山ある。

p267
どんどん長くなってきた日照時間の端っこを、夕暮れに追いつかれないよう進んでいく。

p315
沈黙は彫刻刀に似ている。冷蔵庫の音や隣の部屋の生活音、外の世界を人や車が通り過ぎていく音ーそれまでもずっとそこにあったはずの音たちを、空間からはっきりと削り出す。